先日、マーケットアナリストで、80万部のベストセラーとなった「下流社会」の著者である、三浦 展(みうら あつし)氏の講演を聴く機会がありました。

 演題は「昼の仕事と夜の娯楽」というもので、自宅(住まいのあるところ、要するに郊外。)の役割に変化が必要だ、ということでした。

 今までは、夫は仕事、妻(専業主婦)は家を守り子供の教育。という形だったので、都心(=職場)からの距離(時間距離)が最重要でしたが、現在はこの定式が崩れ、高齢化により夫は定年後自宅近くで働き口を見つけるか、NPOその他娯楽を含めた余暇活動を充実させたいと思い、また妻は共働きがほとんどのため、仕事先が自宅近くになければならない。このような条件を満足させる都市(郊外)に人口が移動しているようです。

 以上が総論でしたが、三浦氏はここ10年から15年の人口の移動について分析しています。この各論がなかなか面白く、参考になると思いますので列挙してみましょう。

 まず大部分の道府県で人口が減少しており、増えているのは、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、滋賀県、福岡県、沖縄県だけです。

 東京都心への通勤圏に含まれるところでも人口が減少しています。
1970年代から80年代、バブル期までに住宅地として開発された、主に都心から30~50キロ圏の地域で近年人口減少が起きています。これらの地域は、そこで生まれ育った郊外二世たちが、
    長い通勤時間を嫌う / より良い子育て環境を求める / より便利な商業を求める
などの理由で、当該地域から流出していることが想像されます。
 新しく育った生産年齢人口が減り、かつて生産年齢人口だった親世代ばかりが残るという事態が進んでおり、具体的には郊外では30〜40代が減っています。
  人口減少の主な都市は、
 東京都 立川市・八王子市・青梅市・昭島市・東村山市・国立市・福生市・多摩市
 埼玉県 行田市・所沢市・飯能市・加須市・春日部市・狭山市・鴻巣市・入間市
     桶川市・久喜市・北本市・蓮田市・幸手市・日高市 その他町村
 千葉県・神奈川県 省略
  しかし増えている都市もあります。
 埼玉県 さいたま市

 さいたま市は県内の他の地域から人を吸収しています。年齢別では30〜49歳が957人、0〜9歳が622人と多く、ファミリー層が流入していると言えます。高層マンションが林立したのと、教育環境の良さを求めたためともみられます。
 一方で、さいたま市から転出する人もいます。転出先は上尾市・蓮田市・伊奈町・吉川町・白岡町等、湘南新宿ラインを利用できる沿線です。副都心に40分前後で行け、横浜にも交通の便がいいということで人気が出たのでしょう。
 そして近年人気のないのが、所沢市。同市には早稲田大学所沢キャンパスがありますが、卒業生は卒業後ほとんど外へ出て行ってしまいます。主婦の働き口も乏しいようで、子育て期の夫婦などが都心など、より便利な地域に引っ越したものと推測されます。西武百貨店の撤退にもみられるように、魅力的な店舗(物販、料亭、居酒屋等)も少ないようです。ちなみに所沢市から人口を奪っているのが、川越市・飯能市・狭山市。特に川越は小京都として一大観光地となり、興味の集まる都市となりました。また就労機会も多く、団塊ジュニアの親世代60〜74歳でも(娯楽を求めてか?)転出超過が多いようです。所沢は残念ながら、工夫のない単なるベットタウンは衰退する、という典型例となっています。

 男女別では、男女とも近県から都内へ流入してきますが、都内から転出するのは、男性の方が多い傾向です。特に埼玉県では、女性のほうが多く都内に流入し、30〜40代になっても都内に留まる人が多い。神奈川県、千葉県の女性にもこの傾向がありますが、特に埼玉県に強いのは、同県は浦和一女・川越女子など女子教育が昔から充実しており、キャリアウーマン的女性が多いのではないかと三浦氏は類推しています。(離婚しても実家近くに戻るのは男性の方。)

 これにより30年前からの「地方は独身男性が多く、中央は独身女性が多い。」いう現象が、首都圏の狭い地域においても生じてきていることがわかります。このような人口動態に適合するような、新しい郊外の形成が必要なのではないかと思われます。

(平成29年5月1日  土屋 治)